猫とランプの軽読ブログ

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インカミング

‪都内某所、遅刻魔の自分が珍しく40分前に目的地周辺に着いた。‬こんな日はもう一つ珍しい事をしてみようと、普段は散歩するところをおとなしく、カフェで暇を潰す事にした。


春の訪れを感じさせる瑞々しいボサノヴァとコーヒーの匂いで、自分には不相応な場所か?と少し勘ぐりながら、テーブル窓際の席に座った。
700円するエスプレッソを頼み、携帯も見ずにぼんやりとしていたら、2番目に付き合った彼女にとてもよく似ている女性と、知らない男性がお互いスーツで店内に入って来た。


12:30分、ちょうど会社の休憩時間だとしてもおかしくは無い。

美しいと言うよりは可愛くて、どこかボケっとしているのに実は気が強い彼女と付き合えたのは、人生の中でも指折りの中に入る程の大金星だったため、7年経った今でも時々思い出すのは当然の流れだ。

 

二人は店内中央寄り、自分から二つ離れたテーブル。

偶然にも、昨日買った文庫本がバッグの中にあったため、コーヒーが届くと大きめの声で感謝を伝え、背筋を伸ばして文庫本を読んだ。
いや、読んでいない。
ページをペラペラめくりながら、コーヒー一杯にしては近すぎるトイレに何回も行きながら、周辺視野で二つの影を追っている。

 

都内のマイナーなコーヒー屋で文庫本を読む自分を、早く、早く、早く、見かけて、声をかけろと心の中で叫んでいた。

 

すると、あっけなく二人は席を立った。

会計を男が済ませ、
「ごちそうさまでした」
の声が聞こえると、明らかに自分の知っている声では無かった。
思わず身体ごと向きを変え女性を見ると、全くの別人だった。よくよく見て見たら、たいして似ても無い。

なんだよと、自分もコーヒー屋を出ようとしたら、電話が何回も掛かってきていた事に気づく。
13:25分。およそ30分の遅刻だった。